「くっ、………苦しぃ………」
あまりの美味しさに完食してしまった。
「残せばいいのに」
「ッ?!残せませんよっ!!せっかく作って頂いたのに。それに、美味しくて残すのは勿体ないです!!」
「フッ。あの2人が聞いたら、喜ぶだろうな」
「ちゃんと帰る時にお礼は言いますっ!!」
彼はソファに深く腰掛け、背凭れに身体を預けている。
私は浅く腰掛け、食後に淹れ直した珈琲を口にしようとしているのだが、珈琲でさえ喉を通りそうに無いほどお腹が悲鳴を上げていた。
再び訪れた、静寂な時間。
お互い無言のまま、ただ窓の外の景色を眺めていた。
すると、
「何か、音楽でもかけるか?」
「えっ?」
「適当にかけるな」
「………はい」
彼はリビングとダイニングの間にあるオーディオスペースへ。
すると、今時珍しいLP盤を幾つか手にして選び始めた。
「レコードですか?」
「ん?……あぁ、あの夫婦の趣味だから」
「夜景といい、カフェといい、レコードといい………素敵ですね」
「ん~だな。俺もこの家はすげぇ気に入ってるから」
「何だか、それ……よく解ります。居心地がいいですしね」
彼はピアノ演奏のクールジャズを選曲した。
優しく緩やかに流れるメロディーに思わずうっとりと聞き惚れる。
彼は再びソファに腰を下ろした。
ふわっとあの香りが鼻腔を掠めると、無意識に胸がきゅんと高鳴った。



