腕を掴んでいた彼の腕がゆっくりと解けて、私の身体を抱き締めた。
さっきよりもはっきりと香る柑橘系の香りに、胸の鼓動がトクンと高鳴る。
「………小町」
耳元に届いた彼の声音は、相変わらず美声で。
でも、今まで聴いた中で1番弱々しく、そして、切なく感じた。
彼の姿を間近で見れただけでも嬉しいのに、抱き締められて、そして、名前まで呼んで貰えた。
ただそれだけで胸が張り裂けそうなくらい嬉しくて……。
彼にしがみ付きたいのに、それが出来ない。
無意味なプライドと意固地な性格が、こんな時に災いして……。
すると、
「今日、早番だよな?」
「へ?…………はい」
「終わったら、会社前のバス停付近で待ってて」
「えっ?」
「迎えに行くから」
彼は言い終えると、私の返事を聞く事なく、ギュッと強く抱き締めてから部屋を後にした。
再び静寂に包まれる資料室。
時折、社内放送のアナウンスが聞こえる程度で、異様に静か過ぎる。
彼の残り香が微かに漂う中、私は自分の身体を抱きすくめるようにして余韻に浸った。
ものの1~2分の出来事なのに、私の胸の高鳴りは中々治まりそうに無い。
やっぱり、私は彼が好き。
こんなにも彼が大好きなんだ。
彼に触れられた部分が、布服越しだというのに熱を帯びている。
まるで火傷したみたいにジンジンと痛むくらいに……。



