「今日はご馳走様。今度は私が奢るよ」
「いいよ、別に」
「じゃあ、気を付けて帰ってね?」
私は相場にお礼を言って、車を降りようとすると。
「んッ?!」
「…………小町」
「なっ…………何?」
ドアノブを掴んでいない方の腕をギュッと掴まれた。
何事かと思い、咄嗟に振り返ると。
真剣な表情の彼がいた。
エンジン音が気にならないほど、一気に緊張の波に襲われる。
気心知れた間柄とはいえ、彼は男。
密室とも思える車内で、腕を掴まれては逃げ場も無い。
「ど、……どうしたの?」
緊張からなのか。
彼の言わんとする事が何となく想像出来るからなのか。
無意識に声が震えていた。
真剣な眼差しは徐々に色香を漂わせ、瞳の奥に熱を帯びた感じが汲み取れる。
そんな彼の視線に耐え切れなくなって、私はドアに張り付くように身を引くと。
「小町のこと、好きなんだ」
「…………へ?」
「俺の彼女になってくれないか?」
「っ…………」
彼の好きな子が、まさか自分だったなんて。
励まして、背中を押したのが仇になってしまった。
だって、私は………麻生さんが好きなんだもん。
「………ごめん」
蚊の泣くような声が車内に吸い込まれて行く。
「好きな奴がいるのか?」
「……………ん」
「待ってても…………ダメか?」
「えっ?」
「そいつと上手く行ったら諦めるから、それまで待ってちゃダメか?」
「………そ、それは………」



