「今、私の胸がドキドキしてるのが分かりますか?」
「……………ん」
「今は麻生さんが目の前にいるので、物凄くドキドキしてます」
「……………ん」
「ですが、同じ会社にいても殆ど会う事も無く、毎日同僚の子達から噂を聞く程度でしか、麻生さんの事を知る事が出来なくて………この胸が切なく疼くんです」
「ッ?!」
「合鍵を貰っても、私は……ズカズカと我が物顔で帰りを待つような女じゃありません」
「………ん」
「なのに、合鍵を見る度に………この家に来てもいいのかな?って思う欲深い私がいるんです」
「………」
「来る筈もない連絡を待ち焦がれて、一日に何度も携帯をチェックしたり」
「………」
「もしかしたら、自宅に来てくれているかもしれないって勝手に思い込んで、急いで帰宅したり」
「………」
「重い女だと思われるくらい………麻生さんの事が気になって気になって………」
ありったけの勇気を振り絞った筈なのに、どこからともなく崩れそうになる。
次第に視界が歪み始め、気付けば頬に温かい雫が伝ってしまう。
「私っ「それ以上、何も言うなッ!」
胸元に寄せてない方の腕で抱きしめられた。
「もう言わなくていい」
「でもっ………」
「頼むから………何も言うな」
布越しに伝わる彼の体温。
お酒が入っているからなのか、いつもより温かく感じる。
そして、鼻に付くほどアルコールの匂いがしてる筈なのに……。
今は彼から香って来る柑橘系の香りしか分からないほど、私の全てが彼を知ろうとしていた。



