「私は早々に降参した方が良いと思いますよ?」
「…………それは無理」
「え?……どうしてですか?」
志帆ちゃんがカップをテーブルの上に置き、じっと私を見据えた。
「実は、ただの勝負じゃないんだよね……」
「はっ?!……もしかして、何か賭けてるんですか?」
「…………ん」
「何を?………ってか、先輩は何を賭けたんですかッ?!」
ちょっと興奮気味に詰問して来る志帆ちゃん。
昨夜のメールにはそんな事、触れられなかった。
だって――――………。
「はっ………」
「…………は?歯をどうにかするんですか?」
「いや、そうじゃなくって………」
「もうッ!苛々するなぁ!ハッキリ言ってくれないと、相談に乗りませんよッ?!」
「うっ…………ごめん。………あの………ね?」
「はい、……………で、何です?」
私が煮え切らない返事をしているものだから、口調が荒くなって来た。
でも、それは仕方がない。
私がハッキリ言わないのが悪いんだから。
私は意を決して深呼吸した。
「あのね」
「はい」
「…………初めてを………」
「初めてって?」
「だから、…………私の初めてを………あげる約束をしたのッ!!」
自分で言っておいて、今すぐ死ねる!!
何これ……羞恥プレイ??
恥かし過ぎて、両手で真っ赤になった顔を覆い隠す。
女・29歳。
あと数ヶ月で30歳になる。
けれど、私は未だに経験が無い。
売り言葉に買い言葉で、つい口が滑ってしまったのだ。