「寝るから、終わったら起こして」
既に寝る体勢を整え、目まで閉じてしまった。
もしかして、これも彼の優しさ?
部長が話してくれた事とこれまでの彼の行動がそう思わせる。
虹ヶ丘店へスペアキーを届けに行った帰り、引ったくりに遭ったあの夜。
彼は電話越しで私の気持ちを察してくれた。
それに初めてキスをした日だって、足を捻ったと勘違いした彼は申し訳なさそうに肩を貸してくれた。
状況が状況だから全てをいい方向に解釈するのはちょっと危険だけど、今日ばかりは余計な固定観念は捨てて、自分に正直になってみようと思った。
勇気を振り絞って彼の指先を掴んでみる。
……やっぱり!
彼の指先は私の指先よりも冷たかった。
コートを私に貸すより、自分で着た方が良いのに……。
「眠たくないのに……」
無意識に言葉に出ていた。
だって、これが正直な気持ちだったから。
すると、彼は眉間にしわを寄せ、困惑した表情を浮かべた。
やっぱり、私を気遣ってしてくれたんだ。
そんな彼の優しさがジンと胸に響く。
「じゃあ、俺が寝れるように握っとけ」
ぶっきら棒に吐き捨てられたセリフ。
だけど、もう解ってしまった。
これは彼の照れ隠しなのだと……。
「はい」
無造作に放り出された彼の手をギュッと掴んで、私はコートの中へ潜ませた。
少しでも彼の手が温かくなるように……。



