映画館を出ると、既に23時を回っていた。
「小町、明日は早番?」
「いえ、遅番です」
「そっか」
「麻生さんは?」
「ん~、適当?」
「え?」
「いや、店舗廻りしてるから、決まった時間は無いって事」
「あっ、なるほど~」
彼女との何気ない会話。
会話自体はフランクだから嬉しいと言えばそうなのかもしれない。
だが、俺の中で引っ掛かるワードが存在する。
俺が彼女の事を『小町』と呼んでいるのに、彼女は一向に俺の名を『麻生さん』と呼ぶ。
まぁ、俺が『大和』と呼んでと言った事がないのだから、当たり前と言えばそうなのかもしれない。
だけど、やっぱり、好きな女からは名前で呼ばれたいモノだ。
そんな些細な事でも、俺と彼女の距離が明白なようで胸が痛む。
一体いつになったら、俺の事を好きになってくれるんだろうか?
彼女の自宅へと向かう車内。
蒼白いオーディオのライトが彼女の横顔を映し出している。
信号待ちの間、俺はチラッと視線を彼女へ向けると、彼女は窓の外をじっと眺めていた。
オーディオパネルの時計が23時35分と知らせている。
彼女に『おめでとう』を言うべきタイムリミットが残り25分を切った。
………どうやって切り出すべきか。
何度も何度も脳内でシュミレーションしてみるものの、中々言い出せずにいると、とうとう彼女のアパート前に到着してしまった。
現在の時刻:23時47分。



