「君、名前は?」
「えっ、私ですか?!………経理課の宮内恵子です」
宮内さんは麻生さんに名前を尋ねられてポッと頬を赤く染めた。
しかし、そんな空気も一瞬で……。
「宮内さん、悪いけど、自分の席に戻ってくれる?」
「へ?」
「ここ、彼女の席だから」
麻生さんがサラリと発した言葉に、その場の空気が一瞬で凍りついた。
女性という意味の『彼女』でも、彼が言うと別の意味に聞こえてくる。
彼は至って普通に私の腕を引き寄せて。
「ん、早く座れよ」
物凄く強引だけど、彼がすると強引とは思えない。
爽やかな笑顔がそうさせているのか、はたまた彼が放つモテ男の雰囲気に呑まれているのか。
綺麗な顔が明らかに歪むほど、宮内さんは悔しさを態度で表していた。
けれど、そんな彼女には全く関心が無いような彼。
何事も無かったかのように彼の隣りに座らされた。
かくして、周りの鋭い視線を浴びながら、私は再び元居た場所へと帰還を果たした。
――――しかも!!
「ん」
「へっ?」
「注いでくれないの?」
彼は私の目の前に空になったグラスを差し出した。
周りの子達が彼にお酌したくてビール瓶を持って待機しているというのに……。
私は彼女らの視線を浴びながら、彼のグラスにビールを注ぐ。
……どうしよう、やっぱり私、帰った方が良いよね?
別に私は彼の事が好きな訳じゃないし、ただほんの少し興味があっただけ。
でも、こうしてお酌も出来たし十分よね。
私は再びコートに手を伸ばし、後退りするように身を引くと。



