(あぁもう、私のバカ!あほ!オタンコナスぅ!!)


思いつく限りの罵詈雑言を自分に浴びせつつ、記憶の中から今月の食費の書かれた帳簿を思い出す。

そうして出たのは――このままだと、今月最後の3日間くらいはもやし生活になるという結論だった。


「あーあ、もっとマサ君に仕事が入ればいいんだけどなぁ……」


私は頭の中に無愛想な同居人を思い浮かべながら、そう小さく嘆息した。


――『東宮時私立探偵事務所』。


とある事情により、私はそこの一人きりの所員である東宮寺雅彦《トウグウジ マサヒコ》と二人で暮らしている。

もちろんタダでおいてもらっている訳ではなく、帳簿の整理や機材の管理、果ては宣伝まで幅広く手伝ってはいるが。


「せっかく顔がいいんだから、営業だと割り切ってもうちょっと愛想よくしてくれればいいんだけどなぁ……」


私はブーブー文句を言いながら、読んでいた『ヘンゼルとグレーテル』の童話を片付けて立ち上がった。