四百年の恋

 「冬悟さまは、御年二十歳。姫よりはお一つ年上でいらっしゃいます。年齢的にはちょうどよいですわね」


 「ちょうどよいとは?」


 「もしも冬悟さまが姫を見初められたら。年も近いですし、似合いの二人になるかもしれませんね」


 「ご冗談はおやめください叔母上。城下随一の貴公子が、私ごときを相手になさるわけないじゃないですか」


 聞く限りにおいては、福山の殿様の末弟である福山冬悟は、まるで光源氏のような人物らしかった。


 (……だけどそんな人、いるわけない)


 きっと何らかの欠点があるのだと姫は疑った。


 酔って暴れるとか、酒癖が悪いとか。


 自分の地位を笠に着て、驕り高ぶっているとか。


 病的な女好きだとか……。


 (光源氏みたいな人が、この世に存在するわけがない)


 夢は見つつも、夢は夢でしかなく、目が覚めたら全ておしまい。


 夢がそのまま現実になることはない。


 そう思い返して月姫は、何も期待しないで福山城に足を踏み入れようとしていたのだった。