四百年の恋

 「福山家第三代当主である冬雅さまに拝謁するのは、姫は初めてですね」


 その夜、月姫は叔母により、福山家とその周辺に関する話を詳しく聞かされた。


 ……戦国の世の動乱を避けて、福山家の初代当主が本州より蝦夷地に逃れてきて居を構え、支配体制を確立させてからほぼ五十年。


 今は第三代当主・福山冬雅の治世。


 冬雅は月姫より、ほぼ二十歳年長。


 若年から壮年に差し掛かる世代。


 生まれながらに将来の当主として育てられ、我がままで強引で、派手好きな面はあるものの。


 支配者としての能力は備わっているようで、家督相続後、福山家の勢力は上昇の一途を辿っている。


 その冬雅には、京の都より迎えた正室の他、地元の娘たちを数名側室に迎えている。


 だがいずれの正室・側室たちとの間にも、未だ嫡男は設けていない。


 冬雅には、四人の弟がいる。


 家督相続に見込みがないため、次男と三男は他家に養子に出ている。


 体の弱かった四男は、出家している。


 そして五男である末弟は。


 先代の当主が年老いてから、側室との間に設けた子。


 ゆえに先代は溺愛し、養子に出すのも出家させるのも許さず、手元に置いて大切に育てた。


 先代逝去後も、末弟は福山城に留まったまま「部屋住み」の立場で過ごしていたが。


 その能力は目を見張るものがあり、冬雅の養子に迎えた上で次期当主の座を……、との声も出ているほどだった。


 加えて美麗な容貌。


 城の女たちの目を釘付けにしているほどだという。


 弟君の名は、福山冬悟(ふくやま ふゆさと)。


 当主・冬雅とは親子ほど年齢の離れた異母兄弟だった。