四百年の恋

 姫はかなり抵抗したものの、結局父の意向には逆らえないまま、翌朝福山城下の叔母の下へと旅立つことになった。


 納得できず、ふてくされたまま部屋へと引き返していった。


 ……姫が部屋へと去った後、姫の両親は以下のような話をしていたのだ。


 「全く……。姫は何も分かっておらぬ」


 父はため息をついた。


 「だけど、私も一抹の不安がございます」


 母の表情も暗かった。


 「不安だと?」


 「おまえ様は、姫が高貴な方のお目に留まれば……と期待なさっておいでですよね」


 「ああ……。わしはあの姫には、上流階級の姫に遜色ないくらいの教養を身につけさせた。自慢の娘だ。こんな田舎のつまらぬ男の嫁にするには、もったいないと思っておる」


 父は堂々と言い放った。


 「福山城下には、殿のご正室の降嫁に伴って下向しました、京の都の公家出身の高貴な方々も多数いらっしゃいます。そのような方々の中に入りますと、姫はきっとつらい思いをするのでは……」


 「姫の教養とあの美しさは、京出身の女たちにも引けは取らぬ」


 「ですが家柄となりますと、姫は太刀打ちできませぬ」


 「と、とにかく、姫を信じるのじゃ。こんな田舎で一生を終わらせるのはもったいないくらいの、自慢の姫じゃ! 姫は間もなく二十歳。この機会を逃せば、本当に行かず後家になってしまう」


 父はなぜか、姫が福山城で玉の輿に乗ると確信していたようだった。


 だけど当の姫は、これまで田舎の男たちからの気の進まない縁談をことごとく却下し、守ってくれていた父が。


 今になって突然、結婚相手を見つけに福山城に行けと言い出したことに対し、反発を隠せずにいた。