四百年の恋

 「私、福山城に行かされる本当の理由、知っているんですから」


 そう言い放って姫は、口を尖らせた。


 困ったように顔を見合わせる両親。


 「わ、分かっておるならおとなしく福山城へ行くのだ!」


 「なぜ今さら、身売りみたいなことされなければならないのですか! これまでずっと父上は、私に舞い込む縁談を断り続けてきましたのに」


 そう、姫が福山城に出向くのは、結婚相手を物色するためだった。


 あわよくば福山城にて宴の折、高貴な殿方のお目にでも留まれば……と両親は企んでいたのだ。


 姫はとっくに気づいていた。 


 「みっ、身売りとは人聞きが悪い。これはお前のためなのだぞ!」


 父は弁明を続ける。


 「私のためと申されますなら、このままこの城に置いてくださいませ」


 「何を言う、行かず後家になるつもりか」


 「別に構いません」


 「わしはすでに五十を越えた。人生五十年というだろう? いつお迎えが来ても、おかしくないんだぞ。わしらが死んだら、お前は一人この城に取り残されるんだぞ」


 「その際は一人、父上の菩提を弔う所存です」


 「女一人でどうやって生きていくつもりだ? 兄の厄介になるつもりか?」


 「兄上はすでに、所帯をお持ちです。迷惑はかけられません。父上がお亡くなりになりましたら、私は出家いたします」


 「ばかをいうな!!」


 父はドン! と床を叩き、食事の膳が飛び上がった。