四百年の恋

 圭介は、振り向くことができない。


 美月姫の目など見られない。


 決意が揺らぐ。


 美月姫を手放せなくなる。


 (美月姫……)


 思いを断ち切るのが苦しい。


 だが、かつて自分によって死に追いやられた福山冬悟の無念を思えば、この苦しみなど比べようもない。


 愛する人を失い、その敵に抱かれた月光姫の悲しみも。


 「ごめんなさい……」


 突然美月姫が泣きながら、圭介に謝ってきた。


 「少し、このままでいさせてください」


 圭介の意志の固さを察したのだろうか。


 それ以上は求めてこなかった。


 その代わりにしばし圭介の背中に顔を埋め、静かに泣き続けた。


 夕日は静かに水平線に近づいていた。


 最後の光を辺りにまばゆく放ち続ける。


 そのままで時は流れ、太陽が水平線に触れる直前だった。


 「吉野さん。お願いがあります」


 しばらく圭介の背中に頬を埋めていた美月姫が声を出した。


 「どうした」


 「もう吉野さんを困らせるようなことは言いません。だから、最後に一度だけ……」


 美月姫は言いかけた言葉を飲み込んだ。


 「一度だけ、何だ?」


 「キス……してください」