四百年の恋

 通い始めてみればたちまち馴染むことができて、楽しい大学生活を送ることができている。


 つらい思い出など、すっかり封印できるくらいに。


 封印。


 「先生」


 しばしの沈黙の後、美月姫の声は震えていた。


 「どうした?」


 「清水くんから……、卒業後に連絡ありましたか?」


 美月姫はおそるおそる、圭介に訊ねた。


 このまま忘れ去ってしまいたかった名前。


 しかしどんなに打ち消しても、色褪せることの無かった記憶。


 「清水とは……」


 美月姫の心情を慮って、圭介は清水優雅の名は口にしないようにしていたが。


 先方から言及してきたので、禁句を解禁した。


 「全く連絡が取れない。唯一の手段が奴の母親への伝言なんだけど、本当に奴に伝わっているんだか」


 「そう……なんですか……」


 美月姫も高校時代の友人と、時々行なうメール交信。


 現状報告の合間に、優雅の消息を探ってみる。


 だけど帰ってくる答えは皆、「音沙汰なし」。


 「三年一組」から東大に進学した者は、数名存在する。


 だが優雅以外は、皆理系。


 なかなかキャンパス内で遭遇する機会はなく、出会ったとしても優雅は笑顔ですり抜けて行くという。


 そして学校周辺で、育ちの良さそうな女の子と会っている姿が、時折見かけられると聞く……。