四百年の恋

 「いってらっしゃい」


 「ありがとう、お母さん。もし遅くなりそうなら、連絡するから」


 美月姫は母親の運転する車で、会場前まで送ってもらった。


 週末の中心街は、行き交う人の波に飲み込まれてしまいそうになる。


 「……」


 店に入る前に、一呼吸。


 緊張を押し殺すかのように。


 静かに美月姫は、勝負に出る覚悟を決めていた。


 優雅に会えるのも、今日を最後にしばらく機会がないかもしれない。


 後から悔やみたくなかった。


 どんなに術なく拒絶されるにしても、白黒はっきりさせておきたかった。


 ……優雅が東京に旅立つ前に、打ち明けておきたかった。


 今の自分自身の想いを。


 ……。


 「ほんと、大村さんってこんなに綺麗だったんだね。もっと早くに判っていたらアタックしたのに」


 隣の席に来た男子が絡んでくる。


 複数の男子生徒に入れ替わり立ち代わり誉められた美月姫は、笑顔で応対していた。


 どんなに迫られても、今日を限りにもう会えないかもしれない相手なので、美月姫は社交辞令で受け答えをくり返した。


 「美月姫、せっかく素材がいいんだから、もっとおしゃれしろってずっと言ってたのに、今さらだもんね」


 女友達も言う。


 今まで学校の友達には見せたことのないような、鮮やかな色合いの装束。


 髪は垂らし、眼鏡も外している。


 いつもとはまるで印象の違う美月姫を、クラスの面々は賞賛していた。