四百年の恋

***


 「いや! 離して!」


 自らを拒絶して、逃げようとする女を追いかけ、追いつめる。


 手首を掴み、押し倒し……。


 「人を呼びます!」


 「誰を呼ぶと言うんだ?」


 「……!」


 呼んでも無駄なことは、女も分かっている。


 男は捕らえた獲物を解体する野生動物のように、女の衣服を剥がす。


 押さえつける男の体を撥ね退ける力もなく、あきらめて身を委ねる前に、女は最後の救いを求める。


 「冬悟さま……!」


 冬悟?


 女が救いを求めた相手の名を、一瞬思い描く。


 その瞬間、世界は鋭く切り裂かれた。


 眩しい光の中、視界を奪われ。


 崖から転がり落ちるように奈落の底へと堕ちていく……。


 zzzzzz・・・。


 目覚まし時計の音で、圭介は現実世界へと引き戻された。


 急にあの時の夢を見て焦った。


 福山になびいていく真姫を奪い返したくて、強引な方法に出たあの時。


 夕暮れの研究室に一人でいた真姫を捕まえ、抱こうとした。


 ところが突然福山が現れて、圭介を咎め。


 気がついたら圭介は、階段から転落していた。


 左膝前十字靭帯損傷という、選手生命に致命的な影響を与えるケガを負ってしまった。