背後にある文房具の在庫が入れられている棚を空けて、赤、黒、青、緑、四色のマーカーを取り出し、美月姫に手渡した。


 「ありがとうございます」


 美月姫は一礼して、圭介の元を立ち去ろうとした。


 「大村、」


 圭介はつい、美月姫を呼び止めてしまった。


 「どうかしましたか?」


 「あ、いや……。掃除頑張れよ」


 「? はい。失礼します」


 大した内容ではないのに呼び止められた美月姫は不思議そうな表情を浮かべつつ、職員室を出て行った。


 (どこか違う雰囲気をまとった……)


 圭介は美月姫を見て、ふと感じた。


 十日ぶりに出会った美月姫は、どことなく変わっていた。


 会わなかったのは、たったの十日間。


 夏休み中も講習の日々はずっと彼女の姿を目にしていた。


 そして札幌での模擬試験旅行。


 本来なら圭介が引率していくはずだったのに、顧問をしているバドミントン部でどうしても外せない行事があり、やむなく別の教師にお願いした。


 引率した教師の話では別にトラブルも生徒の問題行動もなく、無事に函館へと戻って来たとのこと。


 それからすぐに、お盆シーズンに突入。


 お盆前後が、受験生に与えられた束の間の急速だった。