四百年の恋

 「別に東京には行きたくないんだけど」


 「……」


 優雅の父親である与党幹事長の丸山乱雪が、優雅を後継者にと目論んでいて、高校卒業と同時に東京に呼び寄せ、帝王学を授けようとしているって噂は美月姫も耳にしている。


 そうなれば離れ離れになり、もう会えないかもしれない。


 丸山乱雪の後継者となり政治家になれば……、それこそ雲の上の人となってしまうだろう。


 (私は……)


 別世界の住人。


 卒業と共に、訪れるであろう別れ。


 それ以前に……繋がれているこの手と手が離れてしまえば、それっきりのような予感もしていた。


 「ユウガくん。私ね、」


 その時美月姫は、何かを優雅に告げようとした。


 これだけで終わりにしたくない気持ちがあって、それで……。


 「ユウガ、探したぞ!」


 「あっ、美月姫も一緒だ」


 何かを伝えようとした途端、二人だけの世界は仲間たちの声で終わりを告げた。


 水源地の入り口付近で、予想通り仲間たちが待機している。


 いつしか二人は、元いた場所までたどり着いていた。


 「あと30分待って出てこなかったら、警察に連絡しなきゃって話してたんだぞ」


 「ごめんごめん、霧の中迷っちゃって。でも大村さんも一緒に迷っていたから、心強かったよ」


 仲間たちを目にした直後、優雅はぱっと美月姫の手を離した。


 そしておどけて、仲間たちに笑ってみせた。