四百年の恋

 「ずっと記憶していられるのは、いいことじゃない」


 札幌の幼なじみの顔や、死んだおじいちゃんの顔。


 時間の経過と新しい生活に揉まれていくうちに、忘れたくなくても忘れてしまうことは美月姫にも多い。


 「でも、みんなは嫌なことや消去したい過去を、時が経てば忘れていけるでしょ。俺はそれができないの」


 「え?」


 「忘れてしまいたいことも、いつまでも鮮やかにこの胸に残っているんだ。決して色褪せることなく」


 パソコンなどのハードディスクに例えると。


 容量が小さいものならば、満杯になりそうになると、余分なものを削除して新たなものに備える。


 だが容量が大きいものの場合。


 いつまでも容量に余裕があり続けるので、余分なものは生じず、データが増え続ける。


 それは一見、羨ましいように見えて……。


 「大村さんは、大学は札幌にするの? 大村さんの成績なら、東京の大学も大丈夫なんじゃないの?」


 急に優雅が話題を変えた。


 「うん。まだ志望学科も決まっていない状況で、東京に行く必然性もないし……。ユウガくんは東京だもんね」


 そう言い終わった途端。


 卒業と同時に優雅とは離れ離れになる可能性が高いことを悟り、美月姫は寂しさを感じた。