四百年の恋

 「なんか神秘的……」


 霧に覆われているため、淡い月の光。


 それが滲み出るかのように、うっすらと霧の流れを映し出している。


 そして目の前には、神秘的に横たわる水源地。


 「これって結構ロマンティックじゃない?」


 美月姫は横にいる友人に話しかけた。


 「あれ?」


 しかし誰もいない。


 美月姫が立ち止まって景色を眺めているのに気づかず、先に進んでしまったのかと思い、追いかけた。


 しかし誰もいない。


 見回しても、他の見物人の姿すらない。


 存在するのは、信じがたいほどの静けさのみ。


 そよ風に揺れる草の音と。


 ゆっくりとこぼれ出すように拡がり行く霧の音すら響いて来そう・・・。


 「ねえ、みんな、どこ!?」


 さすがに美月姫も焦った。


 「ちょっと……。冗談はやめてよ」


 最初はみんなで悪だくみして、その辺りに隠れているかもしれないと思った。


 だがそんな気配すらない。


 「そうだ」


 美月姫は携帯があるのを思い出した。


 (まさか圏外じゃないよね……)


 さっきバスの中で電源を切って、そのままになっていた携帯に恐る恐る電源を入れた。


 「よかった、圏内」


 だが喜んだのも束の間。


 昨日充電するのを忘れていて、今朝の段階でバッテリーがわずかになっていた携帯は、無情にもこの瞬間バッテリー切れを起こした。


 「そんな!」


 美月姫は連絡手段を喪失した。


 静けさの中、一人暗闇に取り残された。