四百年の恋

 「いやだ、曇ってきたの?」


 女友達が答えた。


 「違うよ。水蒸気というか、もやだよ」


 「霧みたいなやつ?」


 「昼間暑かったのが、夜になって気温が下がると、水蒸気が細かい粒になって・・・」


 空気中の飽和状態がなんだかんだ……と清水が解説を始めたが、昼間の模試で疲れていた美月姫は聞こえないふりをした。


 霧自体は函館でもよく見られるし、珍しいものではない。


 だが徐々に、辺りは白いヴェールに覆われ始めた。


 満月の光すら薄まるほどに。


 「懐中電灯の灯りも、遠くまで届きにくくなった」


 先頭をゆく男子がつぶやいた。


 灯りが白い闇に吸い込まれていく。


 「みんな、離れるなよ」


 「了解」


 六人は互いの間を詰めて歩き始めた。


 「そういえば、ホタルってどこにいるの」


 「あ……」


 暗闇を探検するのが冒険っぽくって楽しくて、六人全員が当初の目的を忘れていた。


 「ホタルは水辺の生物だから、生息地は清流の周辺に限られ」


 清水が言うまでもなく、乾燥が進み草深いこの辺りではホタルは見られないだろう。


 小川のある方角へ移動することにした。


 「あれ? ここは……」


 移動の途中、美月姫は歩みを止めた。


 そこには大きな沼か湖が。


 「ここが水源地か」


 月の光が薄くて分かりにくかったものの、そこには水源地が横たわっていた。