……。


 「……花里さん、花里さん!」


 誰かに呼ばれ、肩を揺り動かされ、真姫は目が覚めた。


 「……?」


 瞼が重い。


 向こうに眩しい光が見えて、目が開かない。


 「起きなさい花里さん、風邪ひくよ!」


 ようやく目を開けた。


 「ここは……?」


 寮の玄関先だった。


 「また酔っ払って寝てるのかい。お嫁に行けなくなるよ」


 寮の玄関の番をしているおじいさんが、真姫を心配そうに見おろしている。


 「私……、いつからここに?」


 「さっきドアが、ものすごい音で開いたから、今見に来たところだよ」


 「誰が私をここに?」


 「え? 花里さん一人だったよ」


 「そんなはずは……」


 この日は福山と二人で、函館駅近くの居酒屋で飲んでいて。


 つい飲みすぎて。


 これから函館山に登ろう! なんて言い出して、山の方角へと向かって歩き出したのだけど。


 酔っていて千鳥足で、街路樹にもたれかかって。


 重なった唇。


 あの感覚を思い出して、真姫は顔が赤くなった。