四百年の恋

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 紅陽学園校舎周辺は、ライラックの木々で覆われている。


 桜や梅が一段落すると、今度は紫色のライラックの季節。


 校舎全体がどことなく甘く高貴な香りに包まれているようだ。


 そしてどこか切ない……。


 美月姫もライラックの香りが大好きで、この日駐輪場に向かう途中、すぐそばのライラックの木に近づき、花に顔を寄せた。


 甘く、物悲しい香り。


 「水上(みずかみ)っ、目立つからやめろって言っただろ!」


 校舎正門の外から、聞き覚えのある声が響いてきた。


 清水優雅だ。


 「優雅さまのご要望通り、目立たない車に変更いたしましたが」


 「だから、これで十分目立つんだって!」


 校門の外で、水上という下僕か執事っぽいスーツ姿の中年男性が、清水を強引に車に乗せようとしていた。


 真っ黒な国産高級車。


 美月姫は車には詳しくはないのだけど、その車は4~500万円くらいする、グレードの高いものであることは見て取れた。


 「ベンツがお嫌だと優雅さまが申されますから、国産車に変更したのですが」


 「目立つには変わりないんだってば! 次からボロい軽乗用車にしてよ!」


 清水はヒステリックに水上に言い放つ。


 学校内での穏かな立ち振る舞いとは対照的な一面だった。