四百年の恋

***


 翌日の放課後。


 この日も数名の生徒との個人面談を終え、圭介は部活の練習がすでに始まっている体育館へと、中庭の連絡通路を歩いていた。


 「あ」


 中庭の真ん中で、見事に咲き誇っている桜の木。


 今は開花から満開へと至るまでの、途中段階。


 「……」


 まだ満開ではないものの、すでに見事な咲き具合で、眺めるたびにため息が出る。


 そして、あの頃を思い出す。


 「長い冬を越え、春の訪れと共に、ほんの一瞬だけ咲き誇るからこそ……」


 真姫の声が胸に鳴り響く。


 まるで隣で微笑んでいるかのように。


 (真姫……)


 切なさで胸が締め付けられそうになる。


 その時だった。


 桜の木の下に、長い髪を揺らして佇む真姫の姿が見えたような気がした。


 「真姫!」


 幻影とは分かっていながらも、圭介は声を出して呼びかけてしまった。


 だが、


 「先、生……?」


 そこにいたのは大村美月姫だった。


 桜の木の下に佇みながら。


 両手を頭上に掲げ、手にした携帯電話をカメラモードにして桜を撮影しているようだった。