それは、桜の咲き誇る季節。


 当主・福山冬雅(ふくやま ふゆまさ)は、弟が婚約者として連れて来た姫に目を奪われた。


 手に入れたいと願った。


 しかし姫は、婚約者である弟への愛を選び、当主からの求愛を恐れ多くも拒んだ。


 兄の懸想を知った弟は、身分を顧みずに抗議した。


 その反抗的な態度に、冬雅は困惑した。


 すると、家臣の一人がつぶやいた。


 「弟君は謀反を企んでいる」と。


 真偽のほどを確かめるまでもなく、冬雅はその讒言を信じた。


 弟は捕らえられ、切腹を申しつけられた。


 「無実の罪で……」


 福山は頷いた。


 「その後、婚約者を失ったお姫様は? 無理やり冬雅と結婚させられたの?」


 「……冬雅のものになったが、やがて弟への愛を選んで自害した」


 「そんな!」


 「残された姫の家族はいたたまれなくなり、のちに全員が自害して果てた」


 「……」


 その時、無意識のうちに。


 真姫の瞳から、涙がこぼれ落ちた。