姫は一人、立待岬(たちまちみさき)の先端に佇んだ。
岩肌に波がぶつかり、白い飛沫を舞い上げている。
秋の風が吹きすさび、肌を冷たくする。
いつの間にか夜明けを迎えていた。
東の水平線から姿を現した太陽が、ゆっくりと白い雲の中を昇り始めている。
また波が勢いよく、岩肌にぶつかった。
激しい波飛沫が、この辺りまで飛んできそう。
姫ははるか眼下の岩肌を見つめ、息を飲む。
(ここから飛び降りるだけで、冬悟さまの待つ世界へと旅立てるはず)
だが下を見るだけで恐ろしい。
あの岩肌にこの体が叩きつけられる瞬間を想像するだけで、身震いがする。
(痛いのだろうか。それとも痛みすら感じる間もなく、一瞬で済むのだろうか。……死の瞬間は)
冬雅の命令で、切腹させられた福山冬悟。
(ご立派な最期だったと叔父たちに聞かされている。だけど立派な最期って、何? 腹を切り裂く際の激痛に耐え、取り乱さずに死の瞬間を受け入れたこと? 恥を忍んで生き続ける私は、この身を切り裂き、血を流すよりも苦しんでいるのかもしれない)
冬雅を憎んで、憎み切れればよかったと姫は悔やむ。
それならば憎しみを糧にして、生き永らえることができたはず。
冬悟との誓いを胸に、全ての苦しみを耐え忍ぶことが可能だった。
(それなのに、私は殿を……)
「!」
気のせいかもしれないけれど、お腹の中で子供が動いたような気がした。
それは姫を思いとどまらせるためだろうか。
(私がここから飛び降りれば、この子の命をも絶ってしまうばかりではない。実の父母や、養子縁組をした叔父夫妻にも迷惑をかけてしまう。周りの人たちをも、不幸の底へと突き落とす)
ゆえに姫は躊躇していた。
岩肌に波がぶつかり、白い飛沫を舞い上げている。
秋の風が吹きすさび、肌を冷たくする。
いつの間にか夜明けを迎えていた。
東の水平線から姿を現した太陽が、ゆっくりと白い雲の中を昇り始めている。
また波が勢いよく、岩肌にぶつかった。
激しい波飛沫が、この辺りまで飛んできそう。
姫ははるか眼下の岩肌を見つめ、息を飲む。
(ここから飛び降りるだけで、冬悟さまの待つ世界へと旅立てるはず)
だが下を見るだけで恐ろしい。
あの岩肌にこの体が叩きつけられる瞬間を想像するだけで、身震いがする。
(痛いのだろうか。それとも痛みすら感じる間もなく、一瞬で済むのだろうか。……死の瞬間は)
冬雅の命令で、切腹させられた福山冬悟。
(ご立派な最期だったと叔父たちに聞かされている。だけど立派な最期って、何? 腹を切り裂く際の激痛に耐え、取り乱さずに死の瞬間を受け入れたこと? 恥を忍んで生き続ける私は、この身を切り裂き、血を流すよりも苦しんでいるのかもしれない)
冬雅を憎んで、憎み切れればよかったと姫は悔やむ。
それならば憎しみを糧にして、生き永らえることができたはず。
冬悟との誓いを胸に、全ての苦しみを耐え忍ぶことが可能だった。
(それなのに、私は殿を……)
「!」
気のせいかもしれないけれど、お腹の中で子供が動いたような気がした。
それは姫を思いとどまらせるためだろうか。
(私がここから飛び降りれば、この子の命をも絶ってしまうばかりではない。実の父母や、養子縁組をした叔父夫妻にも迷惑をかけてしまう。周りの人たちをも、不幸の底へと突き落とす)
ゆえに姫は躊躇していた。



