四百年の恋

 初秋。


 夜明けがだいぶ遅くなってきた。


 冬雅は深い眠りに落ち、これまで目にしたことがないくらいに安らかな寝顔を見せている。


 夜明け前。


 姫は異常に目が冴えた。


 冬雅を起こさないように床を抜け出し、白い寝間着を羽織る。


 恐る恐る障子を開けて、廊下に出た。


 当然、冬雅小姓たちが少し離れた所で、護衛のために待機している。


 「月の御方さま、おはようございます。どちらへ?」


 「おはようございます。ちょっと温泉に浸かって来ます」


 「かしこまりました」


 若い小姓は頷いた。


 「殿はまだ、よく眠られておいでです。起こさないようにお願いします」


 「承知しました」


 姫は歩き去った。


 行き先は、温泉などではなく……。