四百年の恋

 「もうあんな思いはしたくないと、あの時強く願った」


 あれからほぼ二十年の時が流れた。


 「強くならなければ、他人はおろか自分の身すら守れない」


 その後冬雅は家督を相続し、第三代福山家当主となった。


 「奪われる者の痛みをご存知な殿が、なぜ冬悟さまを追いつめたのですか」


 「……」


 「立場が変わると、人の傷みも分からなくなってしまうものなのでしょうか」


 「……冬悟がはじめて、そなたを私の前に伴って現れた時、」


 冬雅は一呼吸置いて語りだした。


 「最初、舞い散る桜の花びらの奇跡かと思った。悔やんでいた過去を取り戻す機会を、神が与えてくれたのだと確信した。そしてすぐにでも手に入れたくなった」


 「私を、その村娘の代用品としてですか」


 「最初はそのつもりだった。形さえ似ていれば、誰でもよかった。だが時を共に過ごしていくうちに、過去の面影が徐々に薄れていくのに気がついた」


 姫も。


 この命を犠牲にしてでも、冬悟の敵である冬雅を殺したいと思うほどに恨んでいたはずなのに……。


 今ではその腕に包まれてしまうと、充実感に満たされる自分を隠せない。


 時の流れは残酷すぎる。


 「過去のことは、もういい」


 最後に冬雅は、姫を強く抱いた。


 「そなたに巡り会えて、ようやく長い夢から覚めたような気がする」


 その手が優しく頬を撫でる。


 「いえ。この世の全ては、朝露のような束の間の幻です」


 姫は冬雅の手に触れた。


 「ならばこのまま私を、幻のごとき夢の中に沈めてください」


 ……この夜だけは姫は、冬雅を拒まなかった。