四百年の恋

 やがてつわりも落ち着いてきた。


 ようやく私は外出できるようになり、周囲の者たちも姫の体調が回復したと判断した。


 いずれお腹が大きくなり始めたらもう隠せなくなることに怯えつつも、姫は現実逃避の日々を繰り返していた。


 そして。


 福山冬雅がここ明石城を訪問するとの連絡が入った。


 毎年恒例の大沼方面視察旅行の帰りに、わざわざこの明石城に立ち寄り、姫を迎えに来るらしい。


 「月、元気そうでなによりだ」


 明石城に到着するなり冬雅は、姫の元へと駆けつけた。


 「会いたくてたまらなかった」


 姫の心の奥には決して届くことのない言葉を、冬雅は口にする。


 「……この度の視察にて」


 季節は初秋。


 綺麗な満月が東の空から昇り始めた。


 やがて冬雅は大沼での出来事を姫に語り始めた。


 「豊臣や徳川のいがみ合いも、ここ蝦夷地には全く関係ない」


 満月に照らされた姫の部屋。


 姫は冬雅の杯に酒を注いだ。


 「周辺の豪族たちが、貢納の品々を多数運び込んで来た」


 最近冬雅は、領土周辺のアイヌ民族に以前に増して厳しい貢納を強いていると聞く。


 「山奥にまた、鉱山が見つかったらしい。この福山家にさらなる富をもたらすであろう」


 「それは何よりです」


 「月、そなたにも土産がある」


 冬雅が指し示した部屋の入り口付近には、木箱がいくつか置かれていた。