四百年の恋

 床に体を横たえているうちに、いつしか姫は寝てしまっていた。


 目が覚めると、時は真夜中。


 部屋は沈黙に包まれ、庭から虫の声がする。


 あまり夏らしくない夏だったものの、それでも季節はゆっくりと動いていたようだ。


 秋の気配を感じる。


 姫は時の流れに恐怖を感じた。


 (このお腹の子供は次第に大きくなり、ごまかしきれなくなる。私が身ごもったことを知れば、未だ嫡男がいない殿は、この上なくお喜びになるだろう。この子が男の子だったならば、私はさらに大切に扱われ、地位も保証される)


 怖かった。


 徐々にこの子に、情が移っていくことが。


 やがて冬悟との誓いも忘れ、この子の母であることを重要視して、冬雅との穏かな日々に満たされてしまいそうで。


 ……その後次第に吐き気と倦怠感がさらにひどくなり、それを隠し通すのにはかなりの労力を要した。


 冬雅の側室としての日々は気苦労が多く、心労が重なって長患いをしていたのは実家の者も知っていたので。


 姫の体調不良は、風邪が長引いているものだと判断され、幸いにも気づかれることはなかった。


 姫の部屋には、今でもたくさんの書物が置かれていた。


 若い頃、日々楽しく読んでいた「源氏物語」。


 (時が経つのを忘れて、あんなに熱心に読んでいたのに。今では埃をかぶっている)


 現実があまりに過酷で、物語の中にすら夢を探すことすら忘れていた。


 「私の前に、光源氏が現れたら・・・」などという甘い夢は、もう見ることもできない。