四百年の恋

***


 ……体調がなかなか回復しない月姫は、一旦明石の自宅に戻って療養することになった。


 福山城下は、姫には空気が合わなかったのかもしれない。


 周囲の人々の冷たい目も、じわじわと姫を苦しめていた。


 精神的にもギリギリの状態だった。


 慣れ親しんだ実家でゆっくり静養したほうがいいと、医師からの忠告もあり、最初は反対していた冬雅も姫の一時帰宅を了承。


 「そんなには長く待っていられない。早く私の元へ戻ってくるんだ」


 冬雅は姫の青白い頬に触れる。


 別れ際、冬雅の肩越しに福山城を姫は見たのだが、それが今生の別れのような気がして仕方なかった。


 そして福山城下から実家までの長い道のりを、輿に揺られる。


 「姫、顔色が真っ青」


 到着して輿から降りた姫の顔色を見て、母親は驚いた。


 「長旅で疲れた。食事はいらないから、早く横になりたい」


 平静を装ったものの、姫の足はふらついており、


 「早く床の準備を」


 母親は侍女に命じた。


 布団が整うとすぐに、姫は部屋に急いで入ってふすまを閉め、布団に飛び込んだ。


 「……」


 乱れていた呼吸と動悸が、落ち着いてくるのを感じる。


 布団に包まって、まだ夏なのに寒気がして冷たく感じる体を暖めた。


 ……実は少し前から、姫は体の異変に気がついていた。


 親戚の姫たちや親しい友人たちが、妊娠初期に見せていた症状。


 間違いなかった。


 (殿がこのことを知れば、どんなにお喜びになることか)


 だけど言えずにいた。


 侍女や周りの者に勘付かれては、隠しきれなくなる。


 それゆえ姫は、そばに仕える侍女にすら話していなかった。


 (このままいつまでも、隠してなどおけないのに……)