四百年の恋

 「……27日目の月が、夜明け前の空にぼんやりと浮かんでいる」


 床に伏す月姫の耳に、福山冬雅の声が響いた。


 「この計算なら、冬悟の法要の夜は新月になるな」


 冬雅の声は、姫にどことなく冬悟の声を思い起こさせる。


 顔を覆う乱れた髪の隙間から、軒先で夜明け前の空を眺める冬雅の姿を姫は確認した。


 白い絹の寝間着を無造作に羽織って、空を見上げている。


 「姫」


 反応のない姫の元へ、冬雅は戻ってきた。


 姫はとても月を見る気分ではない。


 そして体験したことのない痛みが、この身を体の奥から貫くようで、動けずにいた。


 「こうなることは、前世からの定めだった。そんな気がする」


 冬雅が姫の髪を撫でながらそう言った。


 (違う、そんなこと絶対にあり得ない……)


 「泣いているのか」


 露出している姫の肩に、冬雅の手が触れた。


 「暖めてやる」


 冬雅が布団の中に戻ってきて、姫を引き寄せる。


 姫は泣いてなどいなかった。


 自らの無力さに打ちひしがれて、泣く気力もなかったのが事実。