四百年の恋

 「待て」


 姫は冬雅の手をすり抜け、廊下へと飛び出し、冬雅の手の届かない場所へと逃げていこうと思った。


 「あっ!」


 廊下の角を曲がったところで、誰かにぶつかった。


 「姫さま?」


 たまたま通りかかった若い侍女だった。


 「お願い、助けて!」


 「姫さま、どうなさったのですか?」


 「どこか隠れるところあったら教えて!」


 「えっ?」


 侍女は混乱していた。


 「お願い、早く!」


 そこで姫は冬雅に追いつかれてしまった。


 「その必要はない」


 「くせ者!?」


 侍女は冬雅の顔を知らない。


 その男は急に現れた不審な男だと思い込んだようだ。


 姫をかばうような体勢で冬雅に向き合った。


 「何者です! 姫さまに何を!」


 「……我が名は、福山冬雅」


 「えっ、福山……」


 侍女は姫と冬雅の顔を交互に見つめた。


 「私はこの国の誰もに命令できる立場にある人間だ。……姫を渡せ」


 侍女にやんわりと圧力をかけた。


 「い、いやです私は、戻りません……」


 姫は侍女の背中越しに、冬雅に対抗したものの。


 「姫さま、お許しください……」


 侍女は姫を防御するのをやめた。


 姫と冬雅の間には何の障壁もなくなり、そのままあっさりと捕えられた。


 「……」


 一瞬姫は侍女をひどく恨んだ。


 だが仕方のないことだろう。


 安藤家の侍女にすぎない彼女が、一国の支配者に逆らうことなどできない。


 「朝まで誰も姫の部屋に入らぬよう、上役にも伝えておくんだ」


 「はい……」


 侍女はうつむきながら答えた。


 姫は部屋へと連れ戻された。


 (この世に私を救ってくれる人など、誰もいない)


 絶望に満ちた思いを抱えながら。