四百年の恋

 ミシッ……。


 「?」

 木がきしむような音がした。


 風で木の枝同士がこすれた音かと思った。


 ところが。


 夜の風景を眺めるために障子を開けて、廊下に佇んでみる。


 真っ暗闇の廊下の奥を覗くと、誰かがいる。


 使用人だろうか。


 「……どなたですか」


 姫は不安になり、声をかけた。


 「……」


 誰かが無言で近づいてくる。


 叔父夫婦ではない。


 両親でもない。


 ……もっと背が高い。


 (まさか……)


 「久しぶりだな、月光姫」


 「!」


 聞き覚えのある声。


 (私を「月光姫」と呼ぶのは、冬悟さまともう一人)


 「殿……!」


 (どうしてここへ?)


 姫はとっさに部屋に引き返した。


 「待て」


 障子には鍵がない。


 当然冬雅は姫を追うように、部屋に入ってきた。


 部屋にも逃げ場所はない。


 姫はたちまち、冬雅に捕えられた。


 「相変わらず美しいな」


 「お放しください!」


 「……一年間、待ち遠しかった」


 冬雅は背後から姫を強く抱きしめた。


 「なぜ……。どうしてこんな屋敷の奥にまで……」


 「私に逆らえる者など、福山城下にはおらぬ」


 (叔父を脅したんだ)


 「私に逆らえばどうなるか、安藤も身に染みて分かっているはずだ」


 「何ですって?」


 冬雅に逆らえば、死。


 それは冬悟の一件で実証された。


 冬雅は自らの欲のためには、弟さえも斬り捨てる男。


 姫は怒りが蘇ってきた。


 「お放しください!」


 渾身の力を振り絞り、体を振って姫は冬雅の腕を振りほどき、再び障子を開けて廊下へと飛び出した。