夕べの宴は、まだ明るいうちから始められた。
「今年の春は寒い毎日で、桜の開花が遅れておる」
叔父が述べた。
(思えば冬悟さまが切腹なさった日は、すでに桜は散った後だった。だけど今年は、まだ蕾)
数日後の冬悟の命日に、今年はようやく咲き始めの頃かもしれない。
(冷たい春……)
姫はそんなことを考えながら、箸を置いた。
「そういえばここに来る道中、福山城下にて異人たちの集団を目にしました」
「そういえばたくさん歩いておったな。はじめて目にしましたが、本当に髪の毛が金色なんですな」
姫と同行していた父も、同様に偉人たちを目撃していた。
「ああ。彼らはバテレンでしょう」
叔父が答えた。
「バテレン?」
姫は聞き返した。
「異人の信じる宗教の、宣教師だ」
「キリシタンって人たちですか。生前の太閤が、禁止令を出したのでは」
日本伝来の支配体制に悪影響を及ぼすとして、一度禁止令が発布されたのだった。
「さほど厳しい取り締まりではなかったので、未だかなりのバテレンが国内に残っておる。だが向こうは徐々に住みにくくなりつつあるようで、まだ自由な福山城下に移って来る者が多いんだ」
「バテレンとは、仏教でいう僧みたいな存在ですか」
「宗教の指導者という意味では、そんなところだな」
「……」
姫は叔父との会話の中で、一つのことがひらめいていた。
(キリシタンになれないかしら。バテレンたちに密かにお願いして、入信させてもらえたなら)
出家して尼になりたいと願ったこともあるが、この辺りの寺は皆冬雅の息がかかっていて、姫の出家は許してもらえるはずもない。
姫は冬雅から逃れて、魂の救済を求めていた
「今年の春は寒い毎日で、桜の開花が遅れておる」
叔父が述べた。
(思えば冬悟さまが切腹なさった日は、すでに桜は散った後だった。だけど今年は、まだ蕾)
数日後の冬悟の命日に、今年はようやく咲き始めの頃かもしれない。
(冷たい春……)
姫はそんなことを考えながら、箸を置いた。
「そういえばここに来る道中、福山城下にて異人たちの集団を目にしました」
「そういえばたくさん歩いておったな。はじめて目にしましたが、本当に髪の毛が金色なんですな」
姫と同行していた父も、同様に偉人たちを目撃していた。
「ああ。彼らはバテレンでしょう」
叔父が答えた。
「バテレン?」
姫は聞き返した。
「異人の信じる宗教の、宣教師だ」
「キリシタンって人たちですか。生前の太閤が、禁止令を出したのでは」
日本伝来の支配体制に悪影響を及ぼすとして、一度禁止令が発布されたのだった。
「さほど厳しい取り締まりではなかったので、未だかなりのバテレンが国内に残っておる。だが向こうは徐々に住みにくくなりつつあるようで、まだ自由な福山城下に移って来る者が多いんだ」
「バテレンとは、仏教でいう僧みたいな存在ですか」
「宗教の指導者という意味では、そんなところだな」
「……」
姫は叔父との会話の中で、一つのことがひらめいていた。
(キリシタンになれないかしら。バテレンたちに密かにお願いして、入信させてもらえたなら)
出家して尼になりたいと願ったこともあるが、この辺りの寺は皆冬雅の息がかかっていて、姫の出家は許してもらえるはずもない。
姫は冬雅から逃れて、魂の救済を求めていた



