「ただそれだけのために……。殿は弟君を排除なさったのですか」


 「だから私は、そんなつもりでは」


 「殿が自ら手を下さなくても、殿の意を汲んだ赤江が代わりに実行してくれたのですね! 高みの見物を決め込んで、無関係ぶるのは卑怯です」


 「違う!」


 冬雅は強引に姫を引き寄せようとした。


 「仮にも次期当主にと考えた弟に、この身の破滅を望まれていたとは、私がどんなにつらかったか。その気持ちがそなたに分かるというのか?」


 「そんなこと」


 冬雅は姫を抱き寄せ、


 「大切にする。冬悟の分も」


 そう囁いた。


 「いやです!」


 姫は冬雅を突き飛ばした。


 「どうか私をそっとしておいてください。これ以上近寄るならば、私は冬悟さまの後を追わせていただきます!」


 そして隠し持っていた小刀を取り出し、喉元に当てた。


 「そんな物騒なもの、こちらに渡すんだ」


 「……」


 姫は黙って殿を見据えたまま、刀を首筋に当て続けた。