「赤江を利用して冬悟さまを煽り、陥れたのは、殿ご本人ではないのですか!」


 「違う! 私はそんなつもりでは」


 「そんなつもりではない? ですが冬悟さまが邪魔だったのは事実でございましょう? 邪魔者が消えて、さぞや満足」


 「黙れ!」


 冬雅が急に声を荒げた。


 そして姫を押さえ込み、その口を塞ごうとする。


 「お放しください」


 「それ以上の無礼な物言い、許さぬぞ」


 「許されなければどうぞお斬りください。私は構いません」


 「私を挑発して、無礼討ちに遭い命を絶とうと考えておるな。そういう形で、冬悟の後を追おうと」


 「殿が私の口を封じようとするのは、私の言葉が殿の耳には痛く突き刺さるから。つまりそれが真実だからではないのでしょうか」


 「違う。私は策略を用いて冬悟を陥れたりなどしていない。それだけは信じてくれ」


 冬雅の言葉は、姫に嘘をついているようには聞こえなかった。


 (だけどそのまま信じるわけにはいかない。百戦錬磨の殿が、世間知らずな私を騙すことなど、たやすいだろう。


 乱世を生き抜くためには、顔色一つ変えず相手を裏切る技量も必要かもしれないのだと思った。


 それに……。


 「冬悟を一瞬でも疎ましく思ったのは事実だ。なぜならそなたを欲しいと思ったから」


 「殿……」


 「この世は闇だ。闇の世界に光を浴びて散りゆく、淡い色の花びら。そんな花びらをこの手にしたいと願った」