「姫」
冬悟が姫に声をかける。
喧騒の中、ようやく声が届く距離。
「冬悟さま、お逃げください! さあ早く!」
姫は両手で柵を握り締め、叫んだ。
「その方は、何者だ」
騒いでいる姫の元へ、警備の者たちが駆けつけてきた。
「ここから先は、一般の者たちは進入禁止だ。帰るんだ」
「いや……!」
兵たちは姫の腕を強引に掴んだ。
「無礼者! 離せっ。冬悟さま!」
姫は声を振り絞った。
「月光姫!」
冬悟は思わず、姫の名を呼んだ。
「え、月光……。では安藤さまの」
兵たちは姫の正体に気づいた。
「姫さま。どうかお帰りください」
急に態度は丁寧になったものの、姫をここから去らせようとするのは同じ。
「離せ! 冬悟さま……」
「姫」
冬悟は小さく首を振った。
姫に、これ以上の抵抗をやめるようにと無言で告げているようだった。
「生まれ変わって……、また巡り会おう」
冬悟は確かにそう告げた。
(そんなの嫌。このまま冬悟さまを失うことなど……!)
「さあ、帰るんだ」
姫は再度、役人や兵士に取り押さえられた。
「離して……!」
冬悟が連れ去られてゆく。
あの木々の向こうに行ってしまえば、もうその姿は見えなくなる。
その瞬間まで冬悟は、ずっと姫を見つめていた。
だがやがてその姿は、木々の向こうへと消えていった。
「冬悟さま!」
姫は捕らわれた手を振り切り、再び柵を掴んだ。
激しく柵を揺さぶっても、びくともしない。
「冬悟さまー!……」
……これが姫がこの世で目にした、福山冬悟の最後の姿だった。
冬悟が姫に声をかける。
喧騒の中、ようやく声が届く距離。
「冬悟さま、お逃げください! さあ早く!」
姫は両手で柵を握り締め、叫んだ。
「その方は、何者だ」
騒いでいる姫の元へ、警備の者たちが駆けつけてきた。
「ここから先は、一般の者たちは進入禁止だ。帰るんだ」
「いや……!」
兵たちは姫の腕を強引に掴んだ。
「無礼者! 離せっ。冬悟さま!」
姫は声を振り絞った。
「月光姫!」
冬悟は思わず、姫の名を呼んだ。
「え、月光……。では安藤さまの」
兵たちは姫の正体に気づいた。
「姫さま。どうかお帰りください」
急に態度は丁寧になったものの、姫をここから去らせようとするのは同じ。
「離せ! 冬悟さま……」
「姫」
冬悟は小さく首を振った。
姫に、これ以上の抵抗をやめるようにと無言で告げているようだった。
「生まれ変わって……、また巡り会おう」
冬悟は確かにそう告げた。
(そんなの嫌。このまま冬悟さまを失うことなど……!)
「さあ、帰るんだ」
姫は再度、役人や兵士に取り押さえられた。
「離して……!」
冬悟が連れ去られてゆく。
あの木々の向こうに行ってしまえば、もうその姿は見えなくなる。
その瞬間まで冬悟は、ずっと姫を見つめていた。
だがやがてその姿は、木々の向こうへと消えていった。
「冬悟さま!」
姫は捕らわれた手を振り切り、再び柵を掴んだ。
激しく柵を揺さぶっても、びくともしない。
「冬悟さまー!……」
……これが姫がこの世で目にした、福山冬悟の最後の姿だった。



