「今宵このままそなたを連れ帰り、抱きたい気分だ」
「!」
「もっとそばに寄れ」
「あ、都輝子(つきこ)さまです」
「なにっ!」
正室の名前を口にしただけで、冬雅は悪いことをして母に叱られる子供のように顔色を変えて、びくっとして後ろを振り返った。
頭が上がらないとは聞いていたけれど、想像以上の恐妻家だと姫はつくづく実感したのだった。
「……だましたな」
振り返っても誰もいない。
ふすまの辺りを見つめながら、冬雅は苦笑した。
「この蝦夷地の支配者、福山家当主であるこの私をからかうとは、大した度胸の姫だな」
笑いながら扇子を手に、姫の首を切る仕草を見せる。
「私は殿をだました無礼者です。早く流罪にしてこの地から追放してくださいませ」
「そういうことか」
冬雅は笑いをかみ殺すが、肩が震えている。
「面白い姫だ。ますます欲しくなった」
むしろ怒るどころか喜んでいる。
「だが残念ながら、今晩中に福山城に戻らねばならぬ。そなたとゆっくり過ごすわけにはいかぬゆえ、城に戻ってからまたいずれ、だ」
「えっ、今晩帰還なさるのですか?」
姫は驚いた。
なぜならまだ十日近く、ここ大沼に滞在すると聞いていたから。
「!」
「もっとそばに寄れ」
「あ、都輝子(つきこ)さまです」
「なにっ!」
正室の名前を口にしただけで、冬雅は悪いことをして母に叱られる子供のように顔色を変えて、びくっとして後ろを振り返った。
頭が上がらないとは聞いていたけれど、想像以上の恐妻家だと姫はつくづく実感したのだった。
「……だましたな」
振り返っても誰もいない。
ふすまの辺りを見つめながら、冬雅は苦笑した。
「この蝦夷地の支配者、福山家当主であるこの私をからかうとは、大した度胸の姫だな」
笑いながら扇子を手に、姫の首を切る仕草を見せる。
「私は殿をだました無礼者です。早く流罪にしてこの地から追放してくださいませ」
「そういうことか」
冬雅は笑いをかみ殺すが、肩が震えている。
「面白い姫だ。ますます欲しくなった」
むしろ怒るどころか喜んでいる。
「だが残念ながら、今晩中に福山城に戻らねばならぬ。そなたとゆっくり過ごすわけにはいかぬゆえ、城に戻ってからまたいずれ、だ」
「えっ、今晩帰還なさるのですか?」
姫は驚いた。
なぜならまだ十日近く、ここ大沼に滞在すると聞いていたから。



