四百年の恋

***


 「酒!」


 「は、はい」


 ここは福山城から遠く離れた大沼。


 福山家の別荘的存在である館で、夜の宴が開催されていた。


 月姫は冬雅に宴の場に留め置かれ、酒の相手をさせられていた。


 (仮病を使おうかと企んだけど、あまりに同じ口実を繰り返すと叔父の立場も悪くなるし。周囲には殿の家臣たちやご正室の息のかかった者たちもたくさんいるし、大勢の前ではめったなことにならないとは思うけど)


 姫は無表情で杯の酒がなくなると即座に注ぎ続けた。


 気を配っていたのに、窓の外の木々のゆらめきを眺めた時、つい冬悟のことを考えてしまい、冬雅の杯が空になっているのに気づくのが遅れた。


 慌てて酌をしていた時、


 「そなたの指は、公家の姫よりもさらに華奢だ」


 姫はいきなり手首を掴まれた。


 「もっと近くに寄れ」


 「あ、危のうございます」


 急に引っ張られ、手にしていた徳利の中身をこぼしてしまいそうになった。


 「見れば見るほど思い起こされる」


 冬雅は姫の体を引き寄せ、懐かしそうな目で見つめた。


 「何がでございますか?」


 「何でもない。そなたは美しい、冬悟には渡すには惜しい」


 「わたくしは、」


 「もう言うな。そなたにはどうすることもできないことだ」


 「……」


 人前で強引に抱かれそうな雰囲気。


 (こんなところをご正室さまに見られたら、どんなに気分を害されるだろう)


 だがこの夜、正室は体調不良だとかで宴は欠席していた。


 正室の居ぬ間に冬雅は、姫をそばに置きあわよくばと……。