四百年の恋

 「……」


 愛する月姫の実家である明石家宛の書状をしたためている時、冬悟はとりわけ緊張したようだ。


 自分がこれからしでかそうとしていることの大きさを、改めて感じていたのかもしれない。


 万が一失敗した時の不安も頭をよぎる……。


 作戦決行後、冬雅の反撃などに遭い失敗に終わったら、自分が死罪になるのは仕方ない。


 だが巻き込まれる人も出てくる。


 (月光姫……)


 この計画の最大の動機は、冬雅に奪われた姫を取り戻すこと。


 計画が失敗したら、姫に会うことはもはや叶わなくなるどころか、永遠に手の届かない場所へと去っていかなければならない。


 (黙っていれば月光姫は、このまま兄の側室になってしまうだけだ。指をくわえて見ているしかできないよりは、いっそ……)


 冬悟は決意を新たにし、父宛の書状を自らの印で締めた。


 ガタン!


 その時突然急に後ろで大きな音がして、冬悟はびくっとした。


 振り返ると、冬悟の刀が置かれていた台が急に足が折れてしまい、刀が畳の上に転がり落ちていた。


 「やれやれ、縁起でもない」


 赤江は苦笑しながら、刀を拾い上げ、別の台に置いた。


 「赤江。私は本当に許されるのだろうか」


 「何がですか」


 「領民のため、福山家のためと正当化しても、所詮はこれは謀反であろう」


 「確かに謀反ではありますが」


 「こんな私に、民は味方するのだろうか。天の加護は得られるのだろうか」


 「急に弱気になりましたな」


 赤江は苦笑した。