四百年の恋

 「兄上の血は、見たくない」


 その夜。


 冬悟は赤江の屋敷に直接出向き、密議を行なった。


 政権打倒の陰謀。


 現当主である福山冬雅を蟄居に追い込み、その地位を冬悟が継ぐ。


 「冬悟さまはお優しすぎる。ですが戦国時代真っ盛りならまだしも、今の時代に流血沙汰を起こしては、領民の心も離れかねませんし、それが最善策かも」


 最初赤江は、冬雅を殺害するよう暗にけしかけてきたのだが、冬悟はそれはためらった。


 (領民のため、福山家を守るため。兄である福山冬雅には、その地位を退いてもらわなければならない。だけど命を奪うまでは……)


 そこまでは望まなかった。


 「兄には蟄居の後、出家してもらう。周辺諸国には、兄は病気のため家督を私に譲り、出家したということにしておこう」


 冬悟は味方の兵で福山城下を包囲し、大沼から帰還する殿が福山城に戻られないようにする計画だった。


 強引に突破しようとした際には、城門の上から弓や矢を雨霰の如く……。


 そして権力を掌握し、そのまま家督を我が手に収め、殿は馴染みの寺に送って剃髪、出家してもらう。


 ……そういう計画だった。


 冬悟と親しい間柄にある武将たちに、協力を要請する書状をしたため。


 戦国大名・福山冬雅の終焉の地となるであろう寺にも、事情を説明して、冬雅出家後の身を預かってもらうように依頼の書状を。