***
「赤江」
その日、執務室前の廊下で冬悟は兄の重臣である赤江を呼び止めた。
「話がある」
そう告げて、誰もいない庭園に赤江を伴った。
「冬悟さま」
「……」
冬悟は言葉を選んだ。
庭園の桜は、ほぼ散ってしまっている。
わずかに残った花びらが、夕暮れの庭園に風と共に時折舞っていた。
「先日の、お前の話」
「冬悟さまこそ、当主にふさわしいというお話、でしょうか」
「誰もがそう感じているのだろうか」
「もちろんです。冬悟さまこそがこの地の支配者に相応しいと、民の誰もが」
「そうか……」
一呼吸置いた。
「冬悟さまがその気ならば、どこまでもついていこうと願う者は少なくありません」
「……」
「人生における好機とは、そんなに数多く訪れるものではありません。それを上手く見極めたものだけが、この乱世を生き残るのです」
「乱世だと?」
「戦国の世は終わったと思われました。ですが豊臣秀吉公が亡くなられた今、再び乱世の匂いがしてきました」
赤江の言う通り、太閤秀吉の死後の覇権を巡り、諸大名たちが息を殺しているまさにそんな時期だった。
「乱世は、力のある者だけが生き残ることができるのです」
「下克上……!」
冬雅は遠い大沼。
冬悟は恐ろしいことを考え始めていた。
「赤江」
その日、執務室前の廊下で冬悟は兄の重臣である赤江を呼び止めた。
「話がある」
そう告げて、誰もいない庭園に赤江を伴った。
「冬悟さま」
「……」
冬悟は言葉を選んだ。
庭園の桜は、ほぼ散ってしまっている。
わずかに残った花びらが、夕暮れの庭園に風と共に時折舞っていた。
「先日の、お前の話」
「冬悟さまこそ、当主にふさわしいというお話、でしょうか」
「誰もがそう感じているのだろうか」
「もちろんです。冬悟さまこそがこの地の支配者に相応しいと、民の誰もが」
「そうか……」
一呼吸置いた。
「冬悟さまがその気ならば、どこまでもついていこうと願う者は少なくありません」
「……」
「人生における好機とは、そんなに数多く訪れるものではありません。それを上手く見極めたものだけが、この乱世を生き残るのです」
「乱世だと?」
「戦国の世は終わったと思われました。ですが豊臣秀吉公が亡くなられた今、再び乱世の匂いがしてきました」
赤江の言う通り、太閤秀吉の死後の覇権を巡り、諸大名たちが息を殺しているまさにそんな時期だった。
「乱世は、力のある者だけが生き残ることができるのです」
「下克上……!」
冬雅は遠い大沼。
冬悟は恐ろしいことを考え始めていた。



