四百年の恋

 「当時はまだ先代さまの時代で、殿は若君として大事に育てられていた。ところがある日、狩りの最中に偶然出会った村の娘に夢中になられて」


 「そんなことがあったの?」


 「殿はお若くて、不器用ながらも娘を手に入れようとしたものの、娘は戸惑うばかりで。そんな間に殿の母上にばれてしまい、強引に引き裂かれたんですって」


 「なぜ……」


 「公家の姫との縁組が決まっているのに、そんな村娘の存在、婚儀の邪魔になるとお思いになったのでしょう」


 「その後、その娘は?」


 「心労のあまり、程なく亡くなられたそうよ」


 (兄上がお若い頃、そんなことがあったとは……)


 冬悟の生まれる前の話なので、当然知る由もない。


 初めての恋。


 (家の都合で引き裂かれ、それから数十年。当主となった自身の前に、弟が婚約者を連れて来た。その姫はなんと、初恋の相手に瓜二つだった。だからって月光姫を・・・!)


 冬悟は苛立ちを感じた。


 叶わなかった初恋の思い出が、今でも苦く胸に残るのは理解できるとして。


 それに溺れるあまり、そっくりな相手を見つけて夢を再び取り戻そうとするのは、


 (月光姫は、ただの代用品ではないか……!)


 冬悟は憤りのようなものを感じた。


 (月光姫を心から愛したのならまだしも、ただの代用品として求めるとは。あまりにも惨めではないか)


 姫を想うがあまり。


 (いくら兄上でも、許せることと許せないことがある)


 焚きつけられた火が、冬悟の中で徐々に勢いを増していく。