「当時はまだ先代さまの時代で、殿は若君として大事に育てられていた。ところがある日、狩りの最中に偶然出会った村の娘に夢中になられて」
「そんなことがあったの?」
「殿はお若くて、不器用ながらも娘を手に入れようとしたものの、娘は戸惑うばかりで。そんな間に殿の母上にばれてしまい、強引に引き裂かれたんですって」
「なぜ……」
「公家の姫との縁組が決まっているのに、そんな村娘の存在、婚儀の邪魔になるとお思いになったのでしょう」
「その後、その娘は?」
「心労のあまり、程なく亡くなられたそうよ」
(兄上がお若い頃、そんなことがあったとは……)
冬悟の生まれる前の話なので、当然知る由もない。
初めての恋。
(家の都合で引き裂かれ、それから数十年。当主となった自身の前に、弟が婚約者を連れて来た。その姫はなんと、初恋の相手に瓜二つだった。だからって月光姫を・・・!)
冬悟は苛立ちを感じた。
叶わなかった初恋の思い出が、今でも苦く胸に残るのは理解できるとして。
それに溺れるあまり、そっくりな相手を見つけて夢を再び取り戻そうとするのは、
(月光姫は、ただの代用品ではないか……!)
冬悟は憤りのようなものを感じた。
(月光姫を心から愛したのならまだしも、ただの代用品として求めるとは。あまりにも惨めではないか)
姫を想うがあまり。
(いくら兄上でも、許せることと許せないことがある)
焚きつけられた火が、冬悟の中で徐々に勢いを増していく。
「そんなことがあったの?」
「殿はお若くて、不器用ながらも娘を手に入れようとしたものの、娘は戸惑うばかりで。そんな間に殿の母上にばれてしまい、強引に引き裂かれたんですって」
「なぜ……」
「公家の姫との縁組が決まっているのに、そんな村娘の存在、婚儀の邪魔になるとお思いになったのでしょう」
「その後、その娘は?」
「心労のあまり、程なく亡くなられたそうよ」
(兄上がお若い頃、そんなことがあったとは……)
冬悟の生まれる前の話なので、当然知る由もない。
初めての恋。
(家の都合で引き裂かれ、それから数十年。当主となった自身の前に、弟が婚約者を連れて来た。その姫はなんと、初恋の相手に瓜二つだった。だからって月光姫を・・・!)
冬悟は苛立ちを感じた。
叶わなかった初恋の思い出が、今でも苦く胸に残るのは理解できるとして。
それに溺れるあまり、そっくりな相手を見つけて夢を再び取り戻そうとするのは、
(月光姫は、ただの代用品ではないか……!)
冬悟は憤りのようなものを感じた。
(月光姫を心から愛したのならまだしも、ただの代用品として求めるとは。あまりにも惨めではないか)
姫を想うがあまり。
(いくら兄上でも、許せることと許せないことがある)
焚きつけられた火が、冬悟の中で徐々に勢いを増していく。



