四百年の恋

 「殿もやりすぎよね。よりによって弟君の最愛の姫を奪うだなんて」


 「冬悟さまは、逆らえないでしょうね。お気の毒に」


 「いえ、一番お気の毒なのは、月姫さまよ」


 二人の侍女が、噂話を続けていた。


 「案外喜んでいるんじゃ? あのままだったら、当主の弟とはいえ部屋住みにすぎない方の妻にしかなれなかったんだから。それが一転、権力者の側室に」


 「いえ、きっと末路は惨めなものよ」


 「側室でも、殿の寵愛を受ければ」


 「……殿は絶対に、月姫さまを心からは愛されない」


 「どうしてあなた、そんなにはっきりと言い切れるの?」


 「殿が月姫さまをお見初めになった理由、分かる?」


 「若くて美しいからではないの?」


 「それだけじゃないのよ」


 「どういうこと?」


 「……月姫さまは、殿の初恋の方に瓜二つなんですって。身分が低すぎて、側室にすらなれないまま若くして亡くなった、初恋の村娘に。年配の侍女たちは、みんな知ってるそうよ」


 (何だと……)


 冬悟は物陰で、これまでの何よりも衝撃を受けていた。


 (兄上が月光姫を強引に手に入れようとしているのは、姫の美しさそのものが理由なのではなく、実らなかった初恋の相手に、似ているから? それだけの理由で?)