四百年の恋

 それから娘を家まで送り届けて、冬悟は福山城へと戻って来た。


 すると門の辺りに、もめている集団がいるのが目に留まったのだ。


 「お願いしますだ。殿へのお目通りを」


 「だから、殿はただ今大沼へ視察へ出かけていると申しているであろう?」


 城門の門番たちがもめている相手は、みすぼらしい格好をした町人たち、いや農民たちか?


 「どうした」


 冬悟さまは馬に乗ったまま、押し問答している農民たちと門番のそばに駆け寄った。


 「冬悟さま。この者どもが殿へのお目どおりを願い出ているのですが」


 「どのような用件だ」


 冬悟は農民たちに話しかけた。


 「農作物の種の融資を、お願いしたいのですじゃ」


 「種だと?」


 「去年の秋は不作で、種として残しておくべきものも、年貢として納めるしかなかったのですじゃ。おかげで春になっても、植える種もありません」


 「何だと?」


 「このままじゃ、娘を身売りさせるしかありませんですじゃ」


 「農村は、そんな困った事態になっているのか」


 冬悟またまた衝撃を受けたのだった。


 「先代さまの頃には、こんなに生活は苦しくありませんでしたのに……」


 農民がつい口走ったその一言が、冬悟の胸に棘のように突き刺ささる。


 「……今のような農民の陳情が、最近相次いでいるのです」


 「赤江」


 気がつくと冬悟の後ろには、赤江が控えていた。


 「昨今の軍事費増大のツケで、農村が疲弊しているのです」


 「兄上が、間違っていると言うのか?」


 「いえ、私は事実を述べたまでです」


 当主の批判になるようなことは、赤江には口走れないだろう。


 冬悟はそれ以上何も言わず、その場を後にした。