四百年の恋

 ……翌日はたまたま、冬悟さまの生母の月命日だった。


 先代の側室として、ひっそりと生涯を終えた冬悟の母。


 正室の嫡出子である冬雅を慮って、墓は福山家代々の墓所からは少し離れた寺にある。


 側室ゆえ命日の法要も大々的には執り行われず、冬悟とその側近の者たち、そして生前に縁のあった人たちだけが集う質素なものだった。


 墓前に花を手向け、祈りを捧げ、僧侶たちに挨拶を済ませた後、冬悟は寺を後にした。


 その帰り道でのことだった。


 「おやめください!」


 「うるせえ! ここで商売やりてえんなら、俺たちに場所代払いな!」


 「きゃあっ」


 道端の花売りの娘は、まだほんの少女に見える。


 そんないたいけな少女に対し、やくざ風の男数人が因縁をつけていた。


 「場所代払えねえんなら、体で払ってもらうぞ!」


 売り物の花をめちゃめちゃにした挙句、やくざたちは女を拉致しようとした。


 「離して!」


 「黙れ!」


 通行人たちはやくざを恐れているのか、見て見ぬふり。


 「やめないか」


 見かねた冬悟が、馬に乗ったまま割って入った。


 「何だ、てめえ」


 「寄ってたかって、恥ずかしくないのか」


 「うるせえ。だったらお前がこの娘の場所代を払え。ずい分いい身なりをしてるじゃないか」


 やくざは冬悟の身なりを、じろじろ眺めた。


 「着物とその刀をくれたら、この娘は離してやってもいいが」


 やくざがそのように要求して来たのと同時に、冬悟は刀を抜き、やくざの首にかけられた数珠のような首飾りをすっと斬った。


 紐は静かに切れてしまい、玉が周囲に飛び散った。