四百年の恋

***


 一行が大沼に到着した、同じ夜。


 留守居役の冬悟は、執務室から廊下に出て庭園の桜を眺めた。


 すでにほとんど花びらは散ってしまい、下弦の月に寂しく照らされるのみだった。


 当主である冬雅をはじめとして、城の重鎮たちのほとんどが不在の福山城。


 花びらの散った桜の木々のように、静けさが漂いかなり物寂しい。


 冬悟は殿の留守を守る立場ゆえ、ここ最近の重臣会議の議事録に目を通していた。


 夜間に長時間書物に目を通していたため目が疲れて、一休みのために廊下に出てきた時のことだった。


 「夜遅くまで、ご苦労様ですな」


 同様に留守役である重臣・赤江が、冬悟を呼び止めたのだ。


 「赤江」


 冬悟は振り向いて、赤江のほうを見た。


 「さっそく頑張ってらっしゃいますな」


 「兄が不在の間、何かあってはまずいからな」


 「さすが、次期当主としての自覚が備わっていらっしゃる」


 答えにくいことを言われたので、冬悟は曖昧な笑顔を浮かべるだけにしておいた。


 「ところで、最近の議事録はお読みになられましたよね」


 「ああ」


 「あれに目を通して、どう思われます?」


 「ん……。我らが福山家も、支出が多くて大変だなと」


 蝦夷地では米が収穫できないため、本州からの輸入に頼っている。


 海産物や砂金、その他特産物などの輸出で、貿易収支は常に黒字だった。


 ところが。


 「そうやって先代の頃から貯めてきた福山家の財産が、最近ものすごい勢いで減少しているのですよ」