四百年の恋

 ……大沼は福山城からは、片道一日程度の距離。


 綺麗な沼の向こうには、駒ケ岳がそびえる。


 いつ爆発するか知れぬ活火山なのだが、この辺りは気候が温暖で、近場には温泉も数多く存在し、視察ついでに保養地として福山家の人々は重宝しているようだ。


 一行が大沼の地に足を踏み入れたのも、温かな春の日だった。


 「風も強くなく、気候は福山城下よりも温暖なのですね。なぜ城をこちらに築かなかったのでしょう」


 姫は同行した叔父に尋ねた。


 「駒ケ岳がいつ爆発するか分からないからだろう」


 「なるほど」


 周囲には大勢の人がいるので、姫は元気なふりをして振る舞ってはいたのだが。


 胸をよぎるのは、冬悟のことばかり。


 (殿に命じられて以来、一度もお会いできていない)


 常に監視されているので、思うように行動できずにいた。


 きらきらした陽射し。


 葉を広げ始めた木々。


 穏かな春の日なのに、冬悟がそばにいないだけで、姫は体が半分になったようにさえ思われた。


 (許されるのなら……全てを投げ捨ててでも会いに行きたい)


 夜闇に紛れて脱走しようかとすら考えた。


 (だけどそれが公になれば、叔父上たちにも迷惑がかかってしまう。なんとか、殿を再度説得して、私のことをあきらめてもらおう)


 姫はそう考えていた。


 誠意を持って話し合えば、きっと分かってくれると信じていた。


 だが程なく姫は、自分自身の甘さを思い知ることになる……。