……大沼は福山城からは、片道一日程度の距離。
綺麗な沼の向こうには、駒ケ岳がそびえる。
いつ爆発するか知れぬ活火山なのだが、この辺りは気候が温暖で、近場には温泉も数多く存在し、視察ついでに保養地として福山家の人々は重宝しているようだ。
一行が大沼の地に足を踏み入れたのも、温かな春の日だった。
「風も強くなく、気候は福山城下よりも温暖なのですね。なぜ城をこちらに築かなかったのでしょう」
姫は同行した叔父に尋ねた。
「駒ケ岳がいつ爆発するか分からないからだろう」
「なるほど」
周囲には大勢の人がいるので、姫は元気なふりをして振る舞ってはいたのだが。
胸をよぎるのは、冬悟のことばかり。
(殿に命じられて以来、一度もお会いできていない)
常に監視されているので、思うように行動できずにいた。
きらきらした陽射し。
葉を広げ始めた木々。
穏かな春の日なのに、冬悟がそばにいないだけで、姫は体が半分になったようにさえ思われた。
(許されるのなら……全てを投げ捨ててでも会いに行きたい)
夜闇に紛れて脱走しようかとすら考えた。
(だけどそれが公になれば、叔父上たちにも迷惑がかかってしまう。なんとか、殿を再度説得して、私のことをあきらめてもらおう)
姫はそう考えていた。
誠意を持って話し合えば、きっと分かってくれると信じていた。
だが程なく姫は、自分自身の甘さを思い知ることになる……。
綺麗な沼の向こうには、駒ケ岳がそびえる。
いつ爆発するか知れぬ活火山なのだが、この辺りは気候が温暖で、近場には温泉も数多く存在し、視察ついでに保養地として福山家の人々は重宝しているようだ。
一行が大沼の地に足を踏み入れたのも、温かな春の日だった。
「風も強くなく、気候は福山城下よりも温暖なのですね。なぜ城をこちらに築かなかったのでしょう」
姫は同行した叔父に尋ねた。
「駒ケ岳がいつ爆発するか分からないからだろう」
「なるほど」
周囲には大勢の人がいるので、姫は元気なふりをして振る舞ってはいたのだが。
胸をよぎるのは、冬悟のことばかり。
(殿に命じられて以来、一度もお会いできていない)
常に監視されているので、思うように行動できずにいた。
きらきらした陽射し。
葉を広げ始めた木々。
穏かな春の日なのに、冬悟がそばにいないだけで、姫は体が半分になったようにさえ思われた。
(許されるのなら……全てを投げ捨ててでも会いに行きたい)
夜闇に紛れて脱走しようかとすら考えた。
(だけどそれが公になれば、叔父上たちにも迷惑がかかってしまう。なんとか、殿を再度説得して、私のことをあきらめてもらおう)
姫はそう考えていた。
誠意を持って話し合えば、きっと分かってくれると信じていた。
だが程なく姫は、自分自身の甘さを思い知ることになる……。



